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4.口上の攻防
射抜くような土方の視線に、琉菜はたじろいだ。
「この刀傷の跡は何だ」
琉菜はあっと息を飲んだ。
そうだ、池田屋の時の傷跡!
でも、なんで土方さんが知ってるの?
「どうしてこれが刀傷だって思うんですか?」墓穴を掘らぬように、時間を稼ぐ。
「総司がそんな話をしていた」
悪気がないであろうことは容易に想像がついたが、琉菜は少しだけ沖田を恨んだ。
「お前、琉菜になりすましてしゃあしゃあと戻ってきた。違うか?」
そう来たか!
「な、なんのためにですか!?」
琉菜は咄嗟に尋ねた。”中富新次郎”がわざわざ”女装”して新選組に戻る理由など客観的に見ても思い浮かばない。
「そんなの俺が聞きてえくれえだ。だが、その傷が動かぬ証拠」土方が即答した。
「間違いなくそれは中富が池田屋で負った傷」
「これはガラス…と、陶器の破片で切っちゃったんです。向こうにいる時についた傷です」琉菜は苦笑いした。
「ごまかしたって無駄だぜ。たかが陶器の傷でそんな跡がつくか」
琉菜はぎゅっと唇を結んだ。そして、そうだ、と心の中で手を打った。
「兄上…中富さんが脱走したのは、山南さんが切腹する前の年の暮れでしたよね」
「それがどうした」
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