瀕死から始まる魔王の生活

3/20
358人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
一一一一一一一一一 差出人:妹 件名:悲報 本文:お兄ちゃん、先週ママに「部屋片付けなさい」ってあれだけ言われたのに片付けなかったでしょ? 今日私とママでお兄ちゃんの部屋掃除するって決まったから。 タイムリミットは18時。 それまでに帰って来なかったら開始しまーす。 ゆっくり帰ってきてね。 一一一一一一一一一 見た瞬間思わず悲鳴をあげてしまった。 道場の後輩達が何事かとすごい勢いで更衣室に駆け込んできたくらいだ。 相当な悲鳴だったに違いない。 俺はガムが耳に詰まっただけだと言い訳をして、周りの心配を他所に急いで帰りの身支度をした。 そこから先はよく覚えていない。 気がついたら自転車をこいでいた。 颯爽と移り変わる景色。 空を切る音。 真後ろへたなびく黒い髪。 そう、今俺は風になった。 すれ違う人達は目を丸くして俺を見てくる。 我ながら脅威のスピードだと思う。 これほどまでに激走した事が今まであっただろうか。 ……うん、あるな。 期末テスト当日に寝坊して遅刻しそうになったときだ。 激走した記憶がある。 ただ、自転車という乗り物はこんなにもスピードが出るんだということは初めて知った。 そもそも、俺は体力作りと筋トレを兼ねて毎日学校まで走って通っている。 もちろん道場も、基本は学校の部活帰りに通うため必然的に走ることになる。 雨の日も風の日も。 今日だって、日曜日だから学校こそ休みだが、家から道場までしっかり走った。 それくらいランニングには力を入れている。 乱れる呼吸の中、自分の努力に思わず感心してしまう。 去年、俺は剣道の全国大会で個人優勝をした。 来月、10月に高校生最後の選抜大会がある。 その大会を優勝で飾り、華々しい卒業をしようと思っている。 優勝を目指すにはどんな時だって努力を怠ってはならないのだ。 そして同時に疑問が頭をよぎる。 なんで今俺は自転車に乗っているんだ……
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!