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初めての海外ツアー
ケイトが秘書として勤める、ロックバンド、イルミナの来月のヨーロッパツアーの概要が固まった。親会社、AZCプロダクションのスタッフはその準備に忙しかった。
プロデューサーのカイルが、今回のディレクター。彼にとっても初めての海外公演ツアーだ。
ケイトは突然カイルにテキストメールで呼び出された。
「ハイ、ケイト、ちょっと話があるんだけど、外のカフェで会わない?」
カイルはスタジオでよく見かけるが、彼女はいつもガラスボックスのオフィスの中にいるので、挨拶以外の会話はなかった。
なんだろう?彼女は考えた。一応アランにテキストで聞いてみた。ケイトはアランが仕事中は心の言葉を送らない方針だ。仕事の邪魔になるので。
すぐにアランの声が聞こえてきた。
”カイルが?なんだろう?大丈夫だよ。会ってみたら。彼は信頼できるやつで、優しいから。後で教えてね。”
そういう返事。
………
スタジオ近くのカフェでカイルが待っていた。
「やあ、ケイト、ありがとう。突然呼び出してごめんね。ちゃんと会うの初めてだったよね。」
「はい、光栄です。AZCプロダクションのシニアプロデューサーが私に何の用ですか?」
ケイトは緊張して答えた。
「緊張しないでよ。なんか頼もう。エスプレッソ?」
「カフェラッテで。」
「でね、本題だけど、ヨーロッパツアーには、君は行かないんだって?」
「ええ、すごく行きたいんですけど、私、ロースクールの試験があって。」
「ツアー中に?いつ?」
「5月27日ですけど。」
「じゃ、ツアー終わってからじゃない?どうして、来ないの?」
ケイトはカイルを観察しながら答えた。色白で、人を安心させる柔らかな顔の輪郭、ふっくらした口元。でもその瞳はちょっと謎を秘めている。
「私、イルミナのみんなが本当にまじめにやってるから、私も今期卒業することに決めたんです。で、受かるように完璧に勉強しようと思って。普段は、あまり詰めて勉強していないので。」
「そうだよね。ケイトはまめに、人の気持ちの先読んで、よく仕事するよね。」
「ありがとうございます。」
「でもさ、ケイト、それなら、試験日に当たってないなら、是非来てほしい。ツアー中勉強すれば?昼間とか。」
「えー、無理ですよ。ツアー行ったら、私は100%イルミナモードだから、勉強手につかないと思います。」
「アランは知ってるの?」
「ええ、言いました。彼は好きなようにしていいと。」
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