a way of their life

11/16
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 彼の体調が悪くなったのは3年前のことだ。急にクリニックで倒れ、病院に運ばれた彼の命に別状はなかったが、体の衰弱が進んでおり、あまり長くは持たない、と医者に言われたのだった。あの時感じた強い衝撃と暗い不安は今も鮮明に思い出せる。……だが、俯いたにも拘わらず次の瞬間に夫婦で医者を質問攻めにしたこと、その時の医者の驚く表情もよく覚えている。………死が近い? それが何だというのだろう。私は幾多の死線を潜り、幾多の死者を見送ってきた。今回はそれが私の夫の番というだけのことだ。そして彼も、その事実に全く打ちのめされはしなかった。癌じゃなくて良かったよ、病気じゃなくて老衰で死ぬなら大往生じゃないか、なら残りの日々を楽しまなくちゃ、そう言って屈託なく笑う彼を見て、改めて彼の逞しさを思い知ったのだった。 けれど、私は彼に無理をして欲しくはなかった。体が上手く動かないのだから気をつけて欲しかったし、怪我をして結局寝たきり、なんてことになったら意味がない。………そんなことを言って聞くような人ではないことなんて、よく知っている私だったが。     
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!