15人が本棚に入れています
本棚に追加
君は誰よりも
僕はあんなものに興味は無かった。
あんなものは子供を騙した商売のひとつだと思っていた。
「シンカ、ママ応募したら当たっちゃった!」
それなのに勝手にあんなものに応募して、当たった母はそれを僕に押し付けてきた。
「そんな顔しないで、丁度良かったじゃない?今時持ってないのシンカくらいでしょ」
そうやって決めつけて、反論の余地も与えずに、それを僕の顔に掛けてくる。
「いらないよ、ママが使えばいいじゃんか」
「ママは遊ばないから何個もいらないの。いいからほら、凄い似合ってるわよ?着けた方がかっこいいって」
かっこいいかなんて僕はどうでもよかった、別に女子にモテたいなんて思ってないし、同年代の子供に興味は無い。
「それはママから見て、でしょ」
僕が”ませている”事なんて母はよく知っているはずだった、そんな事で僕を釣れるなんて、今更思ってもいないはずだろうに。
「ママの意見は全女子の意見なの!もう、パパみたいに無駄にひねくれてるんだから…」
それでも僕は母の想いを断れなかった、もちろんそれには相応の理由がある。
「パパは関係無いよ、だって全然帰ってこないじゃんか」
「そうね、じゃあママに似たのかなー」
母はいつも家で一人だった、だから僕だけは母と一緒にいてあげなくちゃいけなかった、母の言う事は断っちゃいけなかった。
「あ、パパは今度は来週末に帰ってくるって」
父みたいに母に寂しい思いをさせたくなかった、子供の僕の中にあるものは、たったそれだけの事だったから。
「どうでもいいよ、帰ってきてもすぐどっかに行っちゃうんだから」
僕は母から貰った、特別な眼鏡をポケットに入れると、自分の部屋に戻って、大きなため息を吐きながら辺りを見渡した。
そしてとりあえず黒いランドセルにそれを入れると、ランドセルから宿題を取り出して、重い足取りで勉強机へと向かっていった。
それも宿題も何もかもくだらない、僕は心からそう思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!