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だがアバター設定に入ったその直後、目の前に白い人形のようなロボットのような、人間の骨格だけを表示したような何かが現れると、僕は驚いて立ち止まった。
「なんだこれ」
それは知っていた、聞いていた知識とはまるで違う存在であり、想像していたよりもずっと冷たい、恐怖すら感じる物体だった。
「なんだよこれは」
アバターは所有者の分身、そんな一般常識がいとも簡単に覆るものであり、とてもじゃないがそれが自分を写したものだとは思えない。
「これが…こんなのが僕なのか」
こんな顔の無い、形すらも似つかわしくないこれが自分であるはずがない、仮にこれが僕の本当の姿であるならば、それは僕と僕の関わったもの全てを否定する事になる。
「こんな…”何も無い”…!」
僕の中に何も無いと認める事になる、父と母を言い訳に何にも触れてこなかった自分の乏しさを、他人の粗を見つけて全て否定しながら生きてきた僕がいかにつまらない人間であるか気付いてしまうのだ。
「……ふぅ…」
僕は反射的にそれを外すと、一息深呼吸を吐きながら改めて前を見た、自分の瞳で見る世界は恐ろしいくらい何も無かった。
しかし今はそれが唯一の救いだった、心を落ち着かせるにはピッタリの世界だった、何も無い事に怯えた心が、何も無い事に安堵を覚えるのもおかしな事だが。
気を持ち直し、感情をリセットした僕はエンバーディーをポケットに入れると、再び職員室に向けて歩き始める。
すぐに再び立ち止まるとも知らず、曲がり角のその先にあの二人がいるとも知らずに。
「え?」
やがてはち合わせた僕達三人は、目が合うと驚いて声も出ずに、その場で呆然と立ち尽くした。
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