君は誰よりも

13/23
前へ
/362ページ
次へ
次の瞬間、彼はとんでもない事をいい放った。 「エンバーディーで決めよう」 彼が出した提案は想定外の更に予想外であり、僕とキョウイチは互いに目を丸くして、彼の正気を疑う。 エンバーディーで決める、その言葉が意味するものは恐らく「バトル」であり、もちろん僕は触った事もない初心者である。 動かし方どころか、どうやってバトルをするかも分かっていない、どうみても勝負にすらならないことは分かりきっているのに。 「ハッハーン、さてはオレに勝たせようって魂胆だ。オレがボコってお互い様ってか?悪くねえ、悪くねえ提案だぜカナタ」 僕が初心者である事を知っているキョウイチは、カナタの思惑を見透かすと、へらへらと笑いながら首にかけたエンバーディーを装着する。 「カナタ…?」 対して僕はカナタに、本当に痛み分けをする気かと疑いの目を向けていた、助けた彼に裏切られたのかと不安になった。 「大丈夫だよシンカくん…!」 だが彼の目は反対に希望に満ちあふれており、あの時と同じように僕の何かを信じていた、僕の何かを見透かしていた。 「これが僕達にとって一番良い決着なんだ…!」 カナタはそこに平和的なハッピーエンドがあると、みんなが幸せになる道があると確信していたのだ。 「だがな、カナタごときが舐めんじゃねえよ。オレは歩き方も分からない赤ちゃんをいたぶる趣味はねえ」 僕がやるとも言っていないのに既にやる気満々なキョウイチは、慢心からかそう言うと、ジェスチャーで「かかってこい」と僕にエンバーディーを出すように催促する。 「だからよォ、特別にこのキョウイチ様がご指導しながら戦ってやるよ!ほら出せよお前のアバター!」 二人からの熱い視線に耐えかねた僕は渋々エンバーディーを装着すると、指示通りにあの問題のアバターを表示させ、そしてキョウイチからの挑戦状が届くと、YESに視点を合わせて強く瞬きをした。 「始まるぜエンバーディーバトル!準備はいいかシンカァ!」 やがて目の前にあったはずの現実世界から、瞬く間に無機質な壁やら建物が生えてきて、気付けば僕の視界は遠い異世界に包まれていた。 これがエンバーディーバトル、今や世界中でeスポーツとして嗜まれている、VR対戦型シューティングアクションゲームの決定版。 その世界は想像よりも恐ろしく、予想していたよりもワクワクで心が沸き踊る。 そう、いつの間にか僕は、エンバーディーの造り出す、儚くも美しい世界に魅了されていたんだ。 そして始まる、キョウイチと僕のプライドをかけた、喧嘩のような子供の戯れが幕を開けた。
/362ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加