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忘れられた要塞跡、無機質なコンクリートの壁に覆われ、夜空には青い月が輝くそこは、キョウイチが最も得意とするバトルフィールドである。
障害物という障害物が少なく、ステージのほぼ全てが通路であるこの地形は、恐らく彼の戦闘スタイルにピッタリとハマっているのだろう。
彼の単純で細かい事が大嫌いな、それでいて他人に対抗心むき出しな性格を考えれば、素人でも何となくどう戦うのか想像がつくものだ。
「見つけたぜぇ!一歩も動いてねえとはな!」
やはり彼はこのステージに慣れているようで、ゲーム開始からすぐにキョウイチの刺々しいアバターが、一歩も動いていない僕の無機質なアバターを背後から捉えた。
「なんだぁ!?そのダッセェアバターは!」
キョウイチの手には巨大で凶悪な見た目をしているメイスが握られており、彼はそれを既に振りかざして攻撃する時を待っていた、その気になればこの瞬間に対戦が終わっていただろう。
「まあいい!チュートリアルだ!頭を後ろに引いて避けてみせろ!」
だが宣言通り律儀に教えてくれるそうで、僕は言われた通りに頭ごと体を後ろに仰け反らせると、連動しているのかアバターは見事に後ろに跳んで避けてみせた、そして何もないところにキョウイチはメイスを振り下ろした。
「なんだよなんだよ!できるじゃねえかシンカァ!ならもっと避けられんだろ!」
キョウイチは素直に褒めてくれると、そう言いながら次々とメイスを振り回して攻撃してくる、僕は感覚を噛み締めながら、彼が攻撃を止めるまでひたすらそれを避け続けた。
「ボクシングのイメージだ!オレ達は今、足を固定したボクシングで殴りあってる!!」
「ボクシング…?」
「上半身を動かしてキャラを動かすってことだ!なら攻撃はもう分かるよな!?」
「こう、か!!」
避ける練習の次は攻撃の説明であり、ボクシングというアドバイスのおかげですぐにパンチを出すことができた、どうやら意外と彼は教え上手なようである。
「そうだ!顔の前に構えて動かす!そうやって動かすとパンチが出る!」
「武器は違うのか!」
「分かってんじゃねえか!剣は振る!ボムは投げる!銃は引き金を引く!よーはたったこれだけの簡単な操作だ!分かったか!?」
「分かってるよ!」
それならばと僕は教え通り、左手の初期装備であるハンドガンをキョウイチに向けて、そして引き金を引いてみた。
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