君は誰よりも

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どうして「こんなもの」を僕は持ってきてしまったのか、僕はランドセルに入れた事を忘れてしまったのか。 何故学校に行く前にランドセルの中身を確認しなかったのか、それについては少しだけ寝坊したからである。 「まあ、いっか…」 とりあえずこの「眼鏡」は校則違反ではない、他の子供は普通に持ってきてるし、目の悪い子は付けながら生活している。 今の時代はこの「眼鏡」が生活の必需品だ、母が言うには昔はスマートフォンなるものだったらしいが、僕が生まれた時には既に「これ」があった。 「エンバーディーを持ってても、おかしくはない…」 「これ」というのは眼鏡型スマートコンピューターというやつであり、通称「エンバーディー」と呼ばれる人類の相棒である。 この眼鏡の中には自分の分身が入っていて、生活のサポートから勉強、娯楽まで全てを共に過ごしてくれる、もちろん電話やメッセージの送信なんかもこれ一つで可能だった。 「…それにただの電話じゃんか」 しかし大人達は決まってそう説明するが、要はアバターが入っているだけの従来の携帯端末であり、だから僕は要らないと思っていた。 少なくとも小学生の僕には必要ないだろう、電話しなくても小学校に行けば誰かと会えるし、学校以外で誰かと会う事なんて滅多にない、僕は一人遊びが好きな子供である。 それに僕には母と大人達さえいればいい、同年代の子供なんてみんな、「欠点まみれ」の未熟な人間なのだ。 そこにいる男子は絶望的に運動が苦手でしかもキレやすく、そこにいる女子は人の感情を読み取ることが大の苦手の空気が読めない人である、ならば関わったとしても疲れるだけだろう。 「…初期設定だけはやっておこう」 とりあえず母から貰ったものなのだから、僕はいい加減初期設定だけでも済ませようとその場でエンバーディーを顔に掛けた、確か初期設定をしないと誰かの物になってしまう危険があったはずである。 そういう知識だけは飲み込むあたり、案外僕も「新しいもの好き」なのかもしれない、まあそんな事はどうでもいいか、エンバーディーは顔に掛けて立ち上げるだけで、顔を認識して初期設定が完了したはずだ。 やがて眼鏡の曲がり角から耳にかかる部分「テンプル」にあるコンピューターからレンズに映像が映し出されていく、僕の視界はエンバーディーが造りだした世界に包まれていった。
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