君は誰よりも

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校舎B棟、正面玄関。 6年B組本日最後の下校生徒である僕は、自分の靴箱を開けると、靴を取り出して履いて、紐をしっかりと閉めてから外へと歩き出す。 このまま校門を抜けて、10分ほど歩いたところに僕の家がある、この遠いか近いか微妙な距離が最後の関門だった。 だがその前にふと、担任の先生へ戸締りを報告しなければならない日直の仕事を思い出すと立ち止まる、委員長に言われてないが故に忘れていたのだ。 「…忘れてた…最後の仕事…はあ」 幸い学校の敷地から出ていなかった僕は、そのまま左に歩き出し、生徒用の玄関ではなく職員室のベランダに向かって進んでいく。 そちらの方がわざわざ靴を脱がずに先生に報告できるし、何よりそのまま職員用の駐車場から出て家に向かえる、つまり非常に効率がいいのである。 「そうだ設定しなきゃ」 僕はいつの間にか再度ポケットに入れていたエンバーディーを顔に掛け、暇つぶしに数々の設定をしながら歩いていった、大した距離と時間ではないのだが、こういう時ほど時間は長く退屈に感じるものだ。 「視力に…アカウントに…アバター設定?ああ、アレか…」 エンバーディーの設定は大まかに三つに分かれ、それは眼鏡としての機能と、チャットや通話に必要なアカウントと、自分の分身であるアバターがある。 アバターは初期設定を行った際にある程度は自分の身体情報を取り込んでくれるのだが、それをベースに色々と弄ることができるらしい、もちろん後から変える事も可能である。 その事に関しては事前情報で知っていたというか、母がキャッキャ言いながら遊んでいるところを目撃した事があり、そもそも服を買うときはだいたいアバターに試着させてから良し悪しを決める時代だ。 中にはアバターファッションなんて言って、アバターを着せ替えて楽しむ遊びがあるくらいであり、クラスの女子なんかは昼休みに集まって母みたいにキャッキャ言っている、自分で服をデザインなんて事もできるらしい。 流石にその輪に入るつもりはないが、アバターとは持っているだけで色々な事ができる便利なもので、時には暇潰しにも使える奥が深いものなのだ。 「…せっかくだから」 ならば持っていて損はない相棒だろう、遊び以外にも活用できるし、せっかく自分のエンバーディーがあるのだから。
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