三 佐奈

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三 佐奈

「べっしきめ?」  聞きなれない役職名を友人の五十嵐(いがらし)幸吉に聞かされた。 「なんだ、そのべっしきめ、というのは」 「雄太が知らぬのは無理もない。我が藩だけにあるわけじゃあないのだが……なにしろ奥御殿を護衛する女官のことだからな」  武道をきわめ、人格、品性が備わった女性でなくてはつとまらない。  藩主の正室や世子に人生を捧げる役目であり、嫁ぐことはゆるされない。名誉のある特別な女官だった。 「ほう、それを、花村家の一人娘が目指しているというのか」  佐奈。  という名を聞いてはいたが、わざと雄太は知らぬふりをした。  五十嵐幸吉は道場の井戸端で汗をぬぐってから、にやりとした。 「かなりの美形だそうな。しかし、父親の花村孫左衛門どのは娘を別式女として城に出仕させたいのだと。そのために、幼いころから教養を身につけさせてきたそうだ」 (野原家を意識してのことだろう)  と雄太は察した。
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