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「今のお前はどんな姿なんだよ、垣岩」
アルミ製の門扉に手を掛けた瞬間、あの疑問によって置き去りにされていた緊張感が湧き上がる。
「何をしているの?」
「わぁっ!!」
突然背後から声をかけられ、思わず叫び声を上げてしまった。
(ま、まさか?!)
振り向くと、そこにはモデル体型をしたショートカットの女性が立っていた。無表情のまま静かに相手を捕らえる漆黒の瞳は、子供の頃と何一つ変わらないままだった。
「か、垣岩」
彼女は返事をする事も、頷く事も無く、暫くこちらを黙って見つめていた。
「憶えていないかな。渡辺だよ、渡辺瑞樹。小学生の時、同じクラスだっただろ」
僕の質問に彼女は、少々困った表情を作った。
(憶えている訳ないか。一度も喋らないままだったしな)
「貴方の事は、憶えていないけど知っているわ」
「?」
その返事の意味が分からず、まじまじと彼女を見つめる。
「ごめんなさい、私、言い方がキツかったかしら。そうね、今、少しピリピリしているものだから」
その後、何か言葉を続け様としたが、すぐに彼女は黙ってしまった。
(ピリピリ? という事は、彼女としては喜ばしく無い帰還なのか)
何かを聞こうにも、あまりにも僕達は短い時間しか共に過ごしておらず、その間で友情を築く事も無く、そして人生の殆どを別々に生きてきた。よって、十数年振りに再会した所で、もはや初対面の時よりも隔たりは大きなものと変わっていた。
(そういや勢いでここまで来てしまったけど……垣岩に聞いた所で、今更何の意味も無いか)
─ 藤次は、家でもあんな風に明るく振る舞っていたのか? ─
「……何か」
「えっ?」
言葉に出来ない疑問に支配され、朧げな頭を彼女のよく通る声が呼び起こす。
「何か用事があったんじゃ無いの? この家に」
「いや、この家と言うか」
ちらっと彼女を見ると、あからさまに怪訝そうな顔で返された。この時点でやっと、考えも無しにここに来てしまった事を激しく後悔した。
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