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「ここに来る事は、美羽ちゃんには話してあるわ。だから不法侵入では無いわよ」
「いや、そんな風には思っていないけど……そうだ、美羽ちゃんは元気かな」
この問いに対して、すぐに垣岩が答えないので、何と無くの察しがついてしまった。
「……そうだよな、自分以外の家族がみんないなくなってしまったら……あ……」
やはり僕はこの問題にぶつかってしまう。聞いた所で、今更何にもならないだろう。
(旧友の粗探しと思われるかな。家で暗かったと聞いて僕は喜ぶのか? 悲しむのか? 居なくなって随分経つ彼を責めるのか?)
だが、一度抱いてしまった疑惑は、僕の性格上どうやっても払拭出来ない。意味が無いと分かっていても、既に口は勝手に喋り出していた。
「あのさ、垣岩は憶えていないかもしれないけど。藤次は、両親を亡くしたのに学校では明るく振る舞っていただろ? あれって家でも、あんな感じ……だったのかなって」
殆ど無意識だったので自分が何を話したかハッキリとしないが、多分、僕はそんな感じの質問を投げかけていたと思う。
「……今更そんな事を聞いてどうなるの?」
彼女の口から発せられた言葉で、ようやく頭の中に静寂を取り戻す。固く握りしめていた拳は、汗でうっすら湿っていた。
「た、確かに。そうだよな、今更。ごめん、忘れてくれ」
長い沈黙の後、お邪魔しましたと余所余所しく頭を下げ、その場を去ろうとした。
「……待って」
まさか呼び止められるとは思わず、少し動揺してしまう。
「貴方の用事は終わったかもしれないけど、今度は私が用事を済ませる番よ」
何か悪い態度でも取っただろうか。キッと目尻を釣り上げ、垣岩が一歩こちらに近いて来た。
「自分の現状も、何故私がここに帰ってきたのかも、藤次君がどうなったのかも、何もかも分かっていないのね」
畳み掛けられる言葉の一つ一つを受け止められ無かったが、それでも彼の名前だけは耳に刺さった。
「藤次! 垣岩は藤次の失踪原因を知っているのか?!」
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