人が帰る場所

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 それは、今年、もうすぐ25歳になろうとしていた四月の出来事だった。  高校を卒業後、僕はずっと隣町のホームセンターに勤務している。社員は僕一人なので、必然的に店長という役職に就いているが、スタッフはパートのおばさんが二人だけ。しかも、指示を出すのはこちらではなく、彼女達だ。暇な時はレジ前で突っ立っている癖に、混んでくるとレジには居ない。口癖は「あんた、若いんだから頑張りなさいよ」。そんな人達だ。  この仕事に、やり甲斐も喜びも決して見出せないのは明白だが、だからと言って他にやりたい仕事は見つからない。彼女達が仕事は人生の暇つぶしとよくぼやいているが、結局の所僕も似た様なものかもしれない。  ただ繰り返される何事も無い毎日に、希望や情熱や欲望を抉られていくだけ。まるで煙草の吸い殻を踏み潰して消す様に、僕の感覚も段々と消されていく。  ─ 全ての情熱が消え去った後、僕は僕を認識出来るのだろうか ─ 「行ってきます」 「はーい、行ってらっしゃい」  玄関で小さく呟いただけだというのに、二階にいる母から大層活気ある返事が返ってきた。毎朝の事ながら、母さんの陽気さに尊敬はしないが、羨望する。 (あんな風に毎日明るく過ごせたら。僕の人生、少しは違っていたのかな)  男子は母親に似るというが、この陰鬱な性格は完璧なまでに父さんの複製品(コピー)だ。  父さんは、友達と呼べる人間もおらず、この町の人達とうまく交流出来ず、にも関わらずここから離れる事もなく。まるで首輪で繋がれた家畜の如く、従順に生まれてからずっとこの町で生きている。 (父さん、会社でもきっと誰とも喋らないんだろうな……僕もあんな風になるのかな)  車に乗り込み、一つため息を吐いてからエンジンをかける。すると、待ち構えていたラジオが快活に喋り出した。 「……身元不明の男性の遺体が発見されました。年齢は40から50代。頭部に激しい損傷があり、警察は身元の特定と共に……」 「世知辛い世の中だな、全く」  独り言を零しつつアクセルを踏む。こんな気持ちの沈むニュースを聞くくらいなら、心が和む音楽などを聴いた方が精神衛生上きっと良いのだろう。だが、生憎僕は音楽にあかるくない。それ所か、これと言った趣味らしいものも無かった。
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