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(この町で何かを見つけた所でどうなるっていうんだ? 奇抜なファッションの石原さん家の子は、ただ歩くだけで皆の標的だ。井沼さんだって、独身でロックバンドの追っかけをしている事が、まるで人道を外れているかの様に叩かれているじゃないか。何もせず植物達の様にただじっと、命が尽きるのを待つだけがここでの最良な生き方なんだろ)
最近ずっとこんな風に、投げ遣りな問答を頭の中で延々と繰り返しいる。それは、ただ偏に自分を納得させる為だけに。
考え事をしながら運転をしていると、あまりにも見慣れた景色に『変化』が起きていた事に気付いた。それは、ずっと空き家になっている同級生だった菊竹 藤次の家に差し掛かった時だった。
彼の家は度重なる不幸により、僕が小学生の時に空き家になってしまった。人が居なくなった家は亡霊の如く、ただその形を朧げに保っているだけだった。しかしそれに対して、誰も手入れをしていないのにも関わらず、毎年咲く紅紫の芝桜だけがやけに溌剌として見えた。そのアンバランスさは、僕の心に暗然たる刺激を与えてくるが、それはある種必要な痛みでもあった。この景色を当たり前に、何も感じなくなってしまったら僕の心は死んだも同然だ、というのが自我を保つバロメーターになっているからだ。こうした、当たり前の中に異質さを感じる事で、僕は僕であり、精神は平常を保っていると信じていた。
だが、その日の異質さは、今までとは比べ物にならなかった。
菊竹家の駐車場に、クラシックな外車が一台停まっているのが目に留まったのだ。僕は思わず「おや」と声を出してしまう。
(誰か引っ越して来るのかな?!)
そう思った途端、久しぶりに高揚感が全身を駆け巡った。まるで買ったばかりの本を開く様な、無邪気な興奮が湧き上がってきたのだった。
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