人が帰る場所

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「なんか苦手なんだよ、あいつ。妙に大人ぶっていてさ。家でも全然オレと喋らないし」  昼休み、垣岩の姿が見当たらないのを確認すると、藤次はいつもの調子を取り戻したらしく、べらべらと話し始めた。クラスのみんなは、藤次を囲む様に机を寄せ合って、彼の話を聞き入っている。 「いきなり家に父親と来たんだ。お世話になりますって」  少し乱暴にスープを口に運びながら、彼の頬はすっかり紅潮していた。 「何で追い返さなかったの」 「さすがに、それはまずいだろ」 「あんな顔して意外と図々しいのね、垣岩さんって」 「え? お父さんと二人? 垣岩さんってお母さんいないの」  皆口々に好き勝手な事ばかり話していたが、藤次が口を開いた瞬間、水を打ったように静まり返った。 「そう、父親と二人だよ。母親はいない。まぁ、うちは両親共にいないけど」   急に教室内の空気が重くなる。藤次の両親が、一ヶ月前に不慮の事故で亡くなった話はうちのクラスどころか、学校全体を通して周知だった。  あれは今考えても、不自然な事故だった。  彼の父親は、車で一時間程かけて自動車関連工場に通勤していた。母親は、町で唯一のスーパーでレジのパート勤務。よって、おじさんは車で、おばさんは自転車で通勤するのが日課だった。しかし、あの日は何故か、おじさんの運転する車におばさんが同乗していた。雨が降っていた訳でも無いのに。不思議な点はそれだけでなく、車は工場ともスーパーとも方向が違うレンゲ畑に突っ込んでいた。まるで、レンゲ畑に車体の前半分を飲み込まれた様な形で ──。  事故死と警察が判断した為、おじさんがアクセルとブレーキを踏み間違えたことによるものとしてこの件は幕を閉じた。以来、藤次は祖母と妹と三人で暮らしていた。  しかし、事故にしては不自然な点が多いため、町のみんなは自殺だとか、呪いだとか憶測で噂を広めていた。
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