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当時の幼い僕では深慮に至らなかったが、今になって思えば両親を亡くし、皆に格好の噂のタネにされた子供の絶望と喪失感は想像を超えるものがあるだろう。そして、そんな時、自分と同じ境遇の、しかも歳が同じ子と出会ったら。僕だったら、ドラマチックな運命を感じてしまいそうなものだ。互いにしか分からない痛みを共有出来る、心からの友人と成り得るそうなものだが……。
にも関わらず、彼らはそうならなかった。垣岩の異質感というのは、それらを凌駕する程だったという事か。
「あ! 分かる、分かる!」
藤次の台詞にすかさず女子達が同調する。
「あの子さ、私はあなた達と違うのよ的な空気を出しているよね」
「ほんとー、感じ悪い」
僕は決して垣岩を好きでは無かったが、皆で寄ってたかってこの場に居ない人間の悪口を言うのはもっと嫌いだった。なので、この後皆が話していた内容は聞こえないフリをして、急いで給食を口いっぱいに流し込んだ。
「あれから14年も経つのか」
自室のベッドに横たわり、久し振りにアルバムをめくる。四年生の時の写真は秋の遠足時のものしか無く、小さなクリアファイルでも空きが出る程だった。
「あ、垣岩……こりゃ異質だな、確かに」
彼女はすぐに見つける事が出来た。明らかに一人だけ、あどけなさなど無い、こんな田舎町の子供には決して見られない世の中をよく知っている様な表情をしていた。
「今になって思えば、女子達の垣岩に対する接し方は、嫉妬だったのかもしれないな」
結局、垣岩は初日に皆から受け入れられないまま、数ヶ月という短い間だけを共に過ごした。そう、彼女はまたすぐに引っ越してしまったのだ。
余りにも短い垣岩との学校生活の幕引きは、藤次の失踪という最悪の形だった。
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