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朦朧とする意識の中、そんな事を思い出す。
そして、弱々しい腕で扉を開けるとそこにいたのはーー
(え…。本当に…?嘘…。何で…。)
紛れもなく、私が恋い焦がれていた人物だった。
「店…長…。」
「や、やあ。急にごめんね。」
店長の柔らかい笑顔が私の体調を少しだけ治した気がする。
「何で…。今日は仕事ですよね…?」
「そうだなんだけどね。レジのチーフから藤塚さんの話を聞いて、心配になったから抜けさせてもらったんだよ。あ、これ店の物だけどお見舞い。」
そう言って、渡された袋の中にはスポーツドリンクやヨーグルトなどが入っていた。
「あ、ありがとう…ござい…ます。」
それを遠慮がちに受け取る私。
目の奥が、つーんと痛んだ。
今日は忙しい曜日のはずなのに。やることいっぱいあるのに…わざわざこれだけの為に抜け出してくれたの?
私の…為だけに。
じんわりと心が暖かくなった。
…だけどすぐに切なさが込み上げてきた。
(この優しさは…全部上司としてなんだよね。私の事好きだからじゃない。私だけが特別じゃないんだ…。)
「大丈夫?すごく顔色が悪いじゃないかっ…」
「…いえ。大丈夫です。ありがとうございました。店長も早く仕事に戻ってください。」
俯きながら素っ気なく答える。爆発しそうな感情を抑えるため、拳をぎゅっと握り締める。
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