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少し眠って、体調が良くなったからか、冷静な判断が浮かんできた。
「店長…。ごめんなさい…。いっぱいひどいことを言って、迷惑でしたよね…。」
私が口を開くと、店長は困ったような笑顔を浮かべて答えた。
「いや、迷惑とは思ってないよ。俺の方こそ…ごめん。藤塚さんの気持ちも考えずに無神経なことを言っちゃったよな。」
「…いえ。全部私が悪いんです。」
天井を見上げながら、ぽつり、と呟く。
「私が…馬鹿だったんですよ。奥さんも子供もいる人を本気で好きになっちゃって。ちょっとモテるからって、奥さんから奪えると思って告白なんかして。自業自得です。」
自嘲気味に笑いながら淡々と語る。店長とは目も合わさずに。
そんなことない、とこの人なら反論するだろう。
それを見越して、即座に言葉を繋げた。
「こんな馬鹿な私だから、馬鹿な男にしか必要とされない。それで、馬鹿な男に妊娠させられたかもなんて…滑稽すぎますよね。」
「……えっ…」
ゆっくりと店長の方に顔を向ける。何故か、店長の方が辛そうな顔をしていた。
「私…また援交しちゃいました。それで、妊娠したかもしれません。」
こんな事を告げたのは、店長に同情してほしかったわけではない。
ただ、自分が今抱えてるものを吐き出したかった。誰でもいい訳じゃない。店長なら、受け入れてくれると思ったから。
これ以上、優しさに甘えてはダメだって頭では分かってる。だけど、理屈じゃなかった。
「ごめん…なさい。もうしないって言ってたのに。本当に…ごめんなさい。しかも避妊までしなくて。私のせいです…全部私が…。」
「…藤塚さんは、悪くないよ。」
今までで一番優しくて暖かい響き。
その言葉がゆっくりと胸に染み渡る。
「……え?」
「悪いのは俺の方さ。そんな事、抱えていたのに気づけなくて申し訳ない。…いっぱい独りで悩んでいたんだね。辛かったよね。」
「………」
店長の、一言一言が、まるで消毒液みたい。傷ついた心に少しずつ浸透していく。
痛くて、だけど傷口が塞がっていくのが分かる。
「…なん…で…」
「一人では病院行き辛いだろ?今日、俺も付き添うからさ。今後どうするか、一緒に考えよう。」
じわじわと…身体中に痛みが広がっていきーー
「何で…」
「あ、でも体調が万全になってからの方がいいのか。今日はゆっくり寝て…」
「何でっ…まだ優しくしてくれるんですかぁ…」
涙となって溢れ落ちた。
途端に、おろおろと挙動不審になる店長。
涙なんてもう枯れたと思っていたのにな。
でもこれは、さっきの切ない涙とは違う。
店長の優しさが嬉しかったのだ。
再び援交をした私を責めることもしないで、寄り添ってくれた事が本当に嬉しかった。
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