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「え、ええと…何でって…」
「あれだけ…優しくしないでくださいって、もうやめてくださいって…言ったのに…何でですか?ほおっておいて、逃げればっ…いいじゃないですか…」
声を出す度に大粒の涙が出て枕を濡らしていく。
「逃げるなんて、出来るわけないじゃないか。君は俺の大切な…」
「部下だから…ですよね?」
涙に濡れた顔で見つめると、店長は困ったように目を反らした。
その態度が答えなんだとすぐに分かる。
ちくり、と痛みが胸を刺す。
「それだけじゃ…嫌なんです。私は…貴方に一人の女性として見てほしいんです…。」
嗚咽混じりの声で精一杯伝える。
「藤塚さん…。ごめん。気持ちは本当に嬉しい。だけど、応えることはできないんだ。でも、それでも全力で君を助けたい。残酷なことをしてるのは分かってるけど…」
「っ……ひっく…」
私がこれだけ泣いていても、店長は抱き締めてくれない。頭を撫でてくれない。手も握ってくれない。
触れることが許されない関係だから。
それが余計切なくて辛いのだ。
いっそ私の方からその胸に飛び込もうか。そんなことを考えた。だけどきっと、そっと引き剥がすだろう。
私が望むのは抱き付くことじゃない。抱き締め合うことなのだから、そんなことをしても意味がない。
(あーあ…。ほんと、何で貴方なのかな。まあ、家族を裏切らないところも魅力なんだよな。)
私が店長に恋した理由は沢山あるけど、1番の理由は下心のない優しさ。
だけどそれは裏を返せば、私を女性として見てないから。興味がないからなんだ。
皮肉としか言えない。あれだけ嫌いだった下心を求めているなんて。
目の前やさぐれてる女性を、例え興味がなくても手を差しのべてしまう。助ける方法を知らない癖に。
そんなお人好しで不器用な所に惹かれちゃったのも事実だ。
今は悲しくて泣いちゃうけどもう少ししたら納得出来る。あと少しだけーー
ーーガチャーー
「ちょっとぉー、あんた今日仕事じゃないの?何でもう帰ってきて…」
唐突に、扉が開いて甲高い声が耳に入ってきた。
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