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それでも店長は低姿勢を崩さず、冷静に話した。
「じ、実はですね…今日の朝、娘さんが職場で体調を崩しまして…それで、私の車でこちらまで送らせていただいたのですがご家族の方が見当たらなかったので心配になり、彼女が目を覚ますまで付き添わせていただきました。勝手なことをしてしまい申し訳ありません。」
しっかりとした謝罪の言葉。しかし母親はぴくり、とこめかみを震わせる。
「体調…?あんたもしかして…妊娠…したんじゃないでしょうねぇ!?」
「「!!!」」
その声に、さすがの私も身体を強張らせた。とっさの仕草だった。
私と店長は同時に顔を見合わせる。
無意識にそうしてしまった。
人間、いきなり図星をつかれるとうまい言い訳は出てこない。
その反応で、母親は察したのか苛立たしそうに両手で頭をグシャグシャと掻き乱した。
「嘘でしょ…あんたっ…ここまでバカだったなんて…あーっ…もう!!」
徐々にヒステリックな声に変わっていく。
ーーバカな母親から産まれたんだからバカになるんだよ?ーー
そんな心の声は届かない。
「言っておくけどねぇ!あたしはあんたの子供まで面倒見れないよ!すぐにでも出ていきなさい!!どうせ援交でバカな男に騙されたんでしょ!?っとにもう…男を漁るのはいいけど迷惑かけるんじゃないわよ!!あんたなんか生まなきゃ良かった!!」
荒々しい言葉が次々と私の胸を貫いていく。
いつの間にか、さっきまで流していた涙は綺麗に乾いていた。
怒りとか悲しみは感じなかった。分かりきっていた反応。これが私の母親。
あるのは虚無感のみ。分かっていたけど心のどこかでは期待していた。
少しは心配していたのではないかと。だけど今の言葉で、私の中の何かが急速に冷めていく。
店長をちらりと見ると、信じられないという風に目を見開いていた。
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