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「なっ……!!」
部屋中に、店長の声が響き渡る。びりびりと、私の耳を震わせた。
「う、うるさい!!大体、この子が避妊もしないで手当たり次第ヤるのが悪いんじゃない!後先も考えないでバカなことして…ちゃんとした娘だったらこんなこと思わないわよ!こんな子、追い出されて当然でしょうが!!」
(そうだね。こんな奴、要らないよね。)
「何も考えずにそんなことするわけないでしょう。どこか寂しくて、悲しくて自暴自棄になって、誰でもいいから温もりを求めるんです。その原因は、俺はあなた達両親にもあるのだと思っています。」
(分かったようなこと言わないでよ…。)
「はあ!?あんたに何が分かるのよ!」
「娘さんからご家族の話しは聞いていました。両親は急に仲が悪くなったと。そのことを話す彼女は、表面上は強がっていましたがどこか寂しそうでした。彼女は…藤塚さんは、本当はご両親が大好きだったんですよ。」
「っ……」
(…違うよ。勝手なこと言わないでよ。)
気づけば再び、涙が頬を伝っていた。
「だけどもう元には戻らなくてそれが悲しくて、誰でもよかったからその悲しみを埋めてほしかったんですよ。その結果、間違った方向に進んでしまった。そうなる前に…あなたが娘さんの悩みに寄り添ってあげるべきだったんじゃないですか?」
「それは…」
初めて、母親が挙動不審になった。正直意外だった。何が何でも間違っていないと言い張ると思っていたのに。
少しは店長の言葉が響いてるのだろうか。
「子供が過ちを犯す前に寄り添ってあげるのが親の役目なのに出来なかった。だとしたらあなたが今娘さんに掛ける言葉は違いますよね。親から言われた言葉は良くも悪くも、一生心に残って、抱えながら生きていかなきゃなんですよ。」
一瞬、静寂に包まれる。しばらくしたあと、店長は私に向き直ってきた。
「……とはいえ、今回の件は俺にも責任がある。気づけなくて本当に申し訳なかった。」
深々とお辞儀をする店長に言葉を失う。
丁度視線の先に、いつもの寝癖頭が映り込む。
私の答えを待つ暇もなく、すぐに母親の方に身体を向ける。
「失礼な口を効いてしまい、申し訳ありませんでした。ですが、もう一つ失礼な事を言わせていただきますと子供を否定する親には俺の部下を任せられません。彼女のことは俺が何とかします。……藤塚さん、行こう。」
店長は、力強い目線を向けてくる。
私の中に迷いはなかった。
「……はい…。」
私は、泣きじゃくりながら店長に着いていった。
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