4人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
「あ、これはちょっと無理だから。別の楽譜を持って──」
「それで構いません」
言い終わらないうちに返された言葉に苦笑いを固めた。目を丸くしているアリシアの手から楽譜を取って無言で見つめる。
「あの、ベリル」
いくらなんでも初めてでこれを弾くなんて無理よ。アリシアの心配をよそに少年は楽譜を譜面板に置き、やや迷いながらも鍵盤を弾いた。
「え!?」
ぎこちないけど間違ってない。
時折たどたどしくはなるものの、その旋律は正しく奏でられていた。ここまでの天才少年だとはとアリシアは感嘆する。
「アリシア先生」
「え、何?」
「ここはどう弾けばいいのですか?」
「ああ、ここはね」
指し示されている箇所を確認し、ふとベルハースの言葉を思い出す──技術よりも感情の強調を──確かに、少年に技術を教える必要はほとんどないのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!