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「…わ」
「…川!」
「とわ、呼ばれてるよ」
若菜に肩を叩かれて、私は我に返った。私は若菜の視線を追って、教室の入口に視線を向けた。
「瀬川、客来てるけど」
入口の横の席の三好くんが、やや不満げに短く告げたけれど、入口付近に知っている人の姿は無い。
客? 誰? 他のクラスの友達も、大抵は教室まで普通に入ってきて話をする。そんな、廊下に呼び出されるような知り合い心当たりない。
訝しみながら教室の入口をくぐったその時。
「とわ」
入口のすぐ傍らから、男の人の声で名前を呼ばれて、驚いて私はビクッと肩を竦めた。
視線を向けると、そこには面白そうな視線を私に向ける桜庭くんが居た。
「な…… なんで?」
なんで、名前だけじゃなく、クラスまで知ってるの? なんでここに居るの? 何しに来たの? っていうか、昨日、なんでキスしたの? 私の疑問は山積みで、言葉にならない。
だけど桜庭くんの態度は、極々普通に見えて、桜庭くんにとってキスなんてホントに取るに足らない事なんだと私は思い知る。それがなんだか悔しくて、私は色々問いつめたいと思っていた口を噤んだ。
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