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「午後に授業あるなら言ってくれたらよかったのに」 「だって、直ぐに返してくれると思ってたから」  お昼休みだってあるから、返ってこないなんて思っていなかったのだ。私だったら、借りたら授業終わってすぐに返しに行く。 「予習完璧で助かった。字、凄い綺麗だね。すげー読みやすかった」 「……あ、ありがとう」  予鈴がなるから、帰らないと。私が「それじゃあ……」と切り出そうとしたら、桜庭くんの手が私の髪に触れる。 「とわ。帰り、迎えに行くから待っててよ」 「え?」 「部活終わったら、書道室行くから」 「え、なんで書道部って知ってるの?」  桜庭くんは、微かに笑う。 「そっちなんだ。訊くの」 「え、あ……なんで一緒に帰るのかも、よく分かんない……けど」  しどろもどろになった私の耳元に、桜庭くんが屈んで唇を寄せる。 「今日もあの二人と帰るの?」  私に昨日の若菜と武田のキスシーンをわざわざ思い出させた桜庭くんは、悠然と口元に笑みを浮かべた。 「じゃあまた帰りにね。いい子で待ってるんだよ、とわ」  さりげなく私の傷口を抉った桜庭くんは、とても優しい声で言って、私の頭を撫でた。
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