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 桜庭くんとの約束なんて、別に勝手に桜庭くんが言っただけなんだから気にしなくたっていいのに。  桜庭くん、なんで私のこと知ってたんだろう。名前も、クラスも、多分部活だって知ってて書道室で待っててと言ったのは明白だ。私、そんな桜庭くんに覚えられる様な目立つことなんて全然してないのに、なんで知ってたの?  ていうか、なんでキスなんてしてきたんだろう。  私は自分の唇に指を沿わす。  キスをしたという事のショックが先立って、その感触や感覚については、もう何も覚えていなかった。  はぁ。とため息をひとつ。  今から帰っても、家で悶々としちゃいそう。  私は、筆に墨汁を含ませて、もう一度半紙に向かった。  それから何枚も黙々と書き続けた私は、最後の一文字を書き終えて、息をついた。  今日は色々考えてしまって、途中で間違ってばかりだったけれど、最後の一枚だけは間違わずに書けた。その達成感を感じながら書き終えたばかりの書を見ていると、すぐ傍らから声が聞こえた。 「すげー。よくこんなの間違わずに書けるね」  私は声にならない悲鳴をあげて、その拍子に手にしていた筆を取り落として、筆は今書き終えたばかりの書に、べちゃりと落ちた。
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