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「あ……ごめん」  私の隣の席に長い足を組んで座っていた桜庭くんが気まずそうな声で謝って、私が取り落とした筆を拾って、筆置きに置いた。 「桜庭くん……い、いつから居たの?」 「ちょっと前から。マジで気づいてないと思ってなかった。ごめんね 」  私は首を横に振った。  もう、サッカー部終わる時間になってたんだ。  急いで片付けをしようと立ち上がると、桜庭くんは私の服装をマジマジと見る。 「割烹着着てるんだ」 「制服汚すと困るから、部活用」 「とわは、料理上手そうだよね」  料理、と私は片付けの手が一瞬止まった。 「そんな事ないよ。 料理上手なのは、若菜の方」  自分で若菜を話題に出して置いて、少しだけ心がささくれ立つ。 「誰? それ」  私は、きょとんとして桜庭くんを見た。私を知っているんだから、若菜のことも知っていると思い込んでいた。 「若菜は、武田の…………」  彼女、と言うのが辛くて言葉が途切れる。 「あぁ、武田の彼女? ふぅん、そんな名前だったんだ」  さして興味がなさげな口調で言って、桜庭くんは席を立った。 「窓、閉めていいんだよね?」 「あ、うん。ありがとう」  私は道具を片付けて、窓から外を見ていた桜庭くんの隣から外を眺める。  下校していく生徒がちらほら見えた。  あの中に、若菜と武田も居るのかな? またキス、したのかな?  ……こんなことばっかり考えているの、嫌だな。
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