全部、きみだけ

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「瀬川、顔赤くない?」 「え?」  答える声が微かに上ずった。そんなとわを武田がおかしそうに笑う。 「え……やだ、そんなに赤い?」 「いや、今もっと赤くなった。なんか、ごめん」  謝られたらもっと恥ずかしくなる。とわは少しでも冷ましたくて、熱く火照った頬に手を当てた。  電車の中はエアコンが効いているものの、人の中に埋もれがちなとわには、酷く蒸し暑く感じられる。眼前に迫ってくるスーツの背中。息苦しさに目眩と頭痛がし始めた。  蒸し暑いから電車酔いしたかな……?  電車を降りてもその妙な目眩と頭痛は止まなくて、歩く度に足元の感覚が怪しくて、階段をおりる振動が異様に頭に響いてくる。だけど、駅のホームの階段を降りた先に湊がいるのを見つけたら、安心して気が緩んだ。湊の所まで行ったら大丈夫。そう思ったのだ。 「おはよ」 「はよ」  くらくらとする意識の中、湊と武田が交わす言葉がどこか遠くで聴こえるような気がした。  電車に酔っただけかと思ってたけど……もしかして体調悪い?  とりあえず支えが欲しくて、湊の腕をつかもうととわは伸ばしたが、その手が空を切っる。バランスを崩したとわは、結果としてぽふっと湊の右腕に抱きついた形になっていた。 「とわ? どしたの?」  上から降ってくる湊の声が、妙に頭の中で響く。 「なんか、目眩……す……」  目眩がするから、ちょっと掴まらせて。そう言いたかったのに、身体に全く力が入らなくなった。触れている湊のワイシャツの胸元を握ろうとした手にも力が入らないまま、カクンッと脚の力が抜けた。 「え? ちょっ……とわ?!」 「瀬川?!」  慌てた様子の湊と武田の声が頭の中を反響する。お願いだから、2人ともそんなに大きな声出さないで。頭に響くから。そんな事を思いながら、とわの意識は暗転した。
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