2749人が本棚に入れています
本棚に追加
「早く帰ろ。リュック、俺が持つから頂戴。タクシー使う?」
「ありがとう。すぐだから歩ける、大丈夫」
コンビニに寄ってから家に帰ると、とわを気遣って湊がゆっくり歩いてくれたからか、いつもよりも随分時間がかかっていた。
家の前でとわが取りだした玄関の鍵を見て、湊が小さく笑う。
「ペンギン、そんなとこに居たんだ」
「……うん。これならいつも持ってるし」
とわの家の鍵には、まるっとしたペンギンのぬいぐるみがキーホルダーとして付けられていた。それは、湊と動物園に行った時に買ったもの。ずっと持っていたくてあれこれ考えて、結局家の鍵に付けることに落ち着いた。
「鍵よりペンギンのがだいぶでかいじゃん」
「いいの。カバンの中で居なくならないもん」
体温計と薬を持って、湊を部屋に通そうとして、とわの手が止まった。
本当に湊を部屋に入れるなんてつもり全くない、朝出てきたまんまの部屋である事に今このタイミングで気づいてしまった。しかも今日は、早く家を出てしまいたくて散らかしたままだったような気がする。
「……湊、ちょっとまってて」
「ん?」
「……え、えーと…………部屋片付けるから」
「何言ってんの。寝に帰ってきたんでしょ」
「だってぇ……」
情けない声を上げたとわを呆れたように笑って、湊は部屋のドアを開ける。
「ん、へーきへーき。俺の部屋のがはるかにヤバい」
湊は笑って、とわをベッドに座らせると体温計を差し出した。
最初のコメントを投稿しよう!