全部、きみだけ

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 ***  遥が家のドアを開けると、微かな金属音が郵便受けから聞こえてきた。  ……何かしら?  普段、使うのはエントランスの集合ポスト。ついていてもほとんど使うことがない郵便受けを開けると、鍵がひとつ。手に取って見比べれば、つい今しがた使った家の鍵と同じものだった。  なんでここに? そう思いつつも、体調が悪いので、学校に行かずに家に帰ると電話をくれていたとわの部屋へ向かう。伝言メッセージを聞いて、電話をかけ直したけれど出なかったから、今日締切の仕事だけを取り急ぎ同僚に頼んで帰ってきた。 「とわ? 大丈夫?」  声をかけて部屋を覗くと、とわはぐっすりと眠っていた。テーブルには解熱剤の箱と水が入ったコップ。枕元にはスポーツドリンクとゼリー飲料。その隣に、ペンギンのキーホルダーがノートの切れ端を抱えて座っていた。  ペンギンが抱えた『カギ 郵便受けに入れておくよ』という明らかに女の子の字ではないメモを見て、遥は「あぁ……」と声を漏らした。  湊くん、よね?  相手が湊なら、鍵が郵便受けに入っていたのも納得が行く。  学校の近くの駅までは行ったと言っていたから、おそらくそこで湊に会ったのだろう。そして、湊が家まで付き添ってきたのも、とわが寝付くまでそばに居たのだろうと言う事も、容易に想像がついた。  ほんと仲良すぎる位仲良いんだから……。でも、湊くん、あの時間にとわを(ここ)まで連れてきたなら学校遅刻したんじゃない? 後で桜庭さんに謝って、お礼言わないと……  些か仲が良すぎで、色々と思うところは無い訳では無い。だけど、ぐっすりと眠るとわは、どこか幸せそうにも見えて、遥はかすかに笑みを零した。そっととわの前髪を分けて、軽く額に手を当てる。解熱剤を飲んだ様だけど、その額は明らかに熱かった。 「テストにデートに頑張りすぎたかしらね?」  ぐっすり寝ているから、病院は後回しでも大丈夫かしら? とりあえず、冷却シートを貼ってあげよう。  小さく息を着いた遥は、ペンギンの足元に郵便受けから拾った鍵を置いて部屋を後にした。
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