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「ごめんなさいね……。私ったら……」
「いいえ。川辺さん、大丈夫ですか?」
「ええ……。
私の子供の頃は、鮪が盛んな漁猟の町だったのよ」
「そうだったんですか」
「それなのに突然、鮪が捕れなくなってしまったの。温暖化だとか、海流の流れが変わったとか外来魚のせいだとか色々な噂が流れたわ。
そして、この町はあっという間に廃れたて行ったのよ。そこに半身魚を目撃したって漁師の誰かが言い出したものだから、町長が鮪が居なくなったのは、半身魚が原因だと言い出したの。
その町長も今はもう、とっくに亡くなってるけどね」
「本当に居るんですね……。私、伝説だとばかり思っていました。
漁師の方達が海で行方不明になってるのも、突然の嵐や天候のせいだとばかり」
川辺さんは、ホットレモンティーをゆっくり飲むと
「海に出ない女には、分からないわよね?実際、目で見た訳じゃ無いんだから。
でも、町にとっては半身魚のお蔭で、観光客が増えたから景気は良いわよ?けれど、陸で待つ女の身にもなって欲しいわ」
と、深い溜息をついた。
「本当ですね」
「ごめんなさいね。
独りで喋ってしまって」
「いいえ。
気にしないで下さい。でも……。本当に心配ですね。川辺さんの御主人も息子さんも漁師ですから」
「そうなの。でも、漁師って言ったって名ばかりで目的は『伝説の半身魚』の捕獲よ。馬鹿馬鹿しい!
それでね。うちの息子なんだけど今朝、船から帰って来てなら様子が変なのよ」
「勝君でしたよね?
何処か具合でも悪いんですか?」
「身体は健康よ?
なんなのかしらね?何を言っても上の空って感じで……」
「お年頃だからじゃないですか?」
「そうかしら?でも、そんな感じでも無いのよね……。
もしかして、半身魚でも見たのかしら?」
川辺さんは首を傾げた。
「Half-length fish………ですか?」
私は、川辺さんが帰ると仕事に行く支度を始めた。
私の仕事は、町の中心部にある老舗旅館の仲居だ。
この町に来てから、その旅館で働いている。
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