生け贄

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生け贄

来る観光客は皆、手にはカメラや携帯を持ち、夕食が済むと船に乗り込み海へ出て行く。 夕食前に海へ繰り出す観光客もいる程だ。 皆、Half-length fishを撮影しようと必死なのだろう。 夜で無ければHalf-length fishは現れない。 漁船や小型船は大忙しで最近、観光客専用大型船まで用意されたが 何の(こだわ)りだろう?漁船に乗る観光客の方が多く、もはや、漁船と言うより観光船だ。 たまに、船酔いして帰ってくる観光客は勘弁して欲しい。 人間は、本当に(みにく)い生き物だ。 「三上さん」 もう、深夜0時になろうとしていた。 この町の中心部の旅館や、酒処はHalf-length fishのお蔭で?夜がメインになっている。 その為、昼間は静かだ。 「白石(しらいし)さん、お疲れ様です」 同じ仲居の先輩だ。 私は23歳だから、先輩は25歳だったかな? 「まだ、帰らないの?」 「もう少ししたら帰ります。 明日の準備をして置くように、女将さんに言われたので」 「大変ね! きっと若くて綺麗だからって、嫉妬の嫌がらせじゃないの?」 「女将さん、そんな事しますか?」 「あの人、狐だから!それより聞いた?」 白石さんは、急に小声になり私の耳元に顔を近付けて来た。 「何をですか?」 「昨夜、Half-length fishが目撃されたの」 「ええ。今夜は、その話で持ちきりで観光客の方々も大興奮してましたから」 「そうだよね!じゃあ………。捕獲大作戦の話は?」 「え?捕獲大作戦?!」 「それは知らないか!」 白石さんは愉快そうに笑うと喋り始めた。 「なんでも、データーを取った結果 Half-length fishは満月の夜に、必ず現れるらしいのよ。 それで、次の満月の夜に特別な餌を用意するんだって」 人間か………。 「特別な餌?」 「そう!なんだと思う?」 この女は、質問を質問で返して来るからウザい。 「人間……とか?」 「そう!生け贄を使うんですって! Half-length fishは、人肉が大好物だから『名誉なる生け贄』を募集をするらしいの!」 小声だった声は、何処へやら……。 白石さんは、興奮して声を張り上げていた。 「白石さん、立候補するなんて言わないですよね?」 「する訳ないじゃない! 見物させて貰いたいから、船に乗せて欲しいってさっき、町長にお願いしたの。 けど、多分……ってか絶対に無理ね」 と、溜息をつく。
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