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何と答えたものかわからず面倒臭くなってはっきり言うと、脇田さんは声を裏返らせて驚き、わたわたと確認して慌てて閉めた。どうやらそのことに関してはまったく気付いていなかったらしい。
「……」
「……」
今度こそ気まずい沈黙。ぎぎぎ……と壊れた人形のようにぎこちない動きで顔を上げた脇田さんは、汗をだらだら流していた。
「……じゃあ田上さんは、僕の正体に気付いたわけじゃ、なかった……?」
「ええまったく」
「……!」
「思うに、脇田さんはスパイには向いてないんじゃないですかね」
言うだけ言って踵を返した私の背中に、
「ど、どこ行くんですか?」
追い縋ってくる脇田さんの声。私は顔だけを振り向けた。
「もちろん、店長のところです」
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