変身

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変身

 ある朝、寝床の中で巨大な虫に変身した自分を発見したのはグレーゴル・ザムザだったけど、その朝、私が寝床の中で発見したのは、犬になったお見合い相手の坂本さんだった。  いつもの癖で、ううーんと大きく伸びをした足が何かふわふわしたものを蹴っ飛ばし、寝ぼけたままその毛玉に足を擦りつけていたところ、クゥウン、と何やら可愛らしい鳴き声がし、「あれ、犬なんか部屋に入れたっけな」、昨夜の記憶をたどっていくうちに、私は坂本さんのことを思い出したのだ。  ここでまずは誤解なきよう、私ーー里見(さとみ)三千子(みちこ)と坂本さんの関係を説明しておこう。  坂本さんは私のお見合い相手だ、そう説明したとおり、私と彼は一週間ほど前、会社の社長の勧めで、正式にお見合いをすることになった仲だった。とはいっても、それまで二年も同僚だった人である。特別に親しいわけではなかったが、お互いの人柄はある程度分かっている。     
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