雨とバス停

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こんな個人的な話初対面の人にするべきではないと思いつつ、浮世絵離れした男の容姿と今回限りでもう会うことはないだろう思いが私の口を滑らせた。 「でも、当事者って大変でしょ?」 思いのほか、彼の顔は心配そうにこちらを向いていた。こんな思い話スルーされるかと思っていたのだが、意外にも彼は乗ってきた。 「あーまあね、ささいなことでけんかしてずーっと言い合っているから他の人が見たらぜったいどうでもいいって思うね」 最早、やけくそで答える。 すると、ちょうどいいタイミングでバスがザーっと音を立てて車輪の外へ雨水をまき散らしながらやってきた。 「じゃあ、私、このバスで帰るから。」 個人的なことを打ち明けた気恥ずかしさで逃げるようにバスに乗り込んだ。 「またねー」 後ろから声が聞こえたので、振り返ると微笑んでひらひらと手を振る様子が見えた。 ガラガラの車内でどこに座ろうか迷いながら、こんなこと話した相手に次どんな顔して会えばいいのだ、また会ってたまるかという思いがよぎった。     
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