05.***呪味***

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 拳のままの右手ではなく、左手で招きよせる仕草をすれば、光は徐々に近づいてくる。握りこまれた形の呪詛を左手のひらに載せ、真桜は無造作に飲み込んだ。  (かすみ)を食べる仙人のようだが、飲み込んだ物は『呪詛の塊』だった。 「不可思議なことだ」  アカリの声は呆れが滲んでいる。以前も人の悪意の塊を飲み込んでけろりとしていた真桜だから、心配はしていないようだ。  ただ、神族であっても……いや神族であるからこそ、人の悪意を飲み込めば害される。そのためアカリは同じ事をしない。しかし闇の神族の血を引く真桜は、何も影響がないように見えた。 「ん? 散らしても呪詛はまた別の形になるからな。吸収すれば外に散らさずに済む」 「闇の神族の能力か?」 「たぶん……母が巫女だった所為かも」  闇の神王である父に同じ能力はないらしい。以前、アカリ同様に驚かれたことがあった。飲み込んだ呪詛を味わうように唇に指を当てた真桜は、奇妙な感覚に首を傾げる。 「これ、人間の呪詛じゃないぞ?」 「……本当に奇妙な能力だ。以前も言ったが、一度開いてみたいな」  呪詛の内容まで感じ取る真桜の発言に、呆然としていたアカリはくすくす笑い出す。物騒な物言いに真桜は肩を竦めて首を横に振った。
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