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「義姉さん酷いよ…」
薄暗いので善三さんの表情はあまりはっきりとは伺えませんが、どうやら拗ねて頬を膨らませているようでございます。
ワタクシは、この前の“熊騒動”で酷い口ぶりでいじめられた仕返しとばかりに、言葉責めに出ます。
「お若いくせにお下手なのね。あゝ、これなら亡くなった主人の方がいくらか上手でしたわ」
「義姉さん、そんなこと言わないで。
ボクにとっては初めての…。
今まで隠してたけど、ボク、初めてなんだよ…」
善三さんは今にも泣きそうな声で訴えています。
あゝ初めてでいらしたのね。
それなら仕方ありませんわ。
ワタクシも大人気のないところを見せてしまいました。
道理で下手くそ…いやいや、大人の女性として殿方を恥をかかせてはなりませんから、口はつむぐことにいたします。
「いいわ、善三さん。
私が急いていましたわ。ではゆっくり…ゆっくりと動いてみてくださる?」
そう言ってワタクシは善三さんの脚を支えます。
善三さんがホッとした様子が、善三さんの体から伝わってきます。
やがて善三さんの目線がワタクシと同じになりました。
ワタクシはそこでようやく優しく声をかけて差し上げるのです。
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