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考えるように瞼を震わせ、言いあぐねる紅を見つめて、碧哉はやはり、笑った。
○○○
この子供は実際、話を聞いていた以上に思慮が深いように見受けられる。
思考がしっかり出来るというのは、臆病者がすることであることに他ならない。
―――だが、それこそが戦う者に必要な、確実に生きるために必要なものである。
人としての当たり前の権利。
当たり前の尊厳。
当たり前の願い。
それを持つことこそ、翡翠碧哉という男にとっては、何よりも望ましく。
そして。
羨ましいとすら思うほど、美しいものだった。
しかし時間は、普通の人間からすれば限りのあるもの。ただ黙っている相手に合わせて待っているだけでは時間の無駄になる。
それは、本意ではない。
「なにか気になることでもある?」
「あります、けど……」
「聞きにくい?」
すると、紅はほんのわずかに眉尻を下げた。
「少しだけ……」
会話や言葉の選択というものは人間の会話には存外必要なのだということは、さすがの碧哉も知っている。
実際、現代の人間社会に身を投じた際に様々な人間と話したことで、彼はそれを学んだ。
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