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感受性が豊かな子供ほど面白いものはなく、綺麗なものはないと、思っているから。
「それで、俺に何か……用事が……?」
「いや、特にはない。ただ見に来ただけであり、次を紡ぐために、やってきた」
自身〝たち〟では持ちえない、美しい心。
それが羨ましくて―――微笑ましい。
〝無彩〟の陰陽師は、こう告げた。
あれは世界を変える一端の一つだと。
あれを中心に、世界は廻り始める。
善くも。悪くも。
そういう力を持った、強い子供には、ついちょっかいをかけたくなってしまう。
そして、本人の自覚はないが薫〝自身〟もその一端に加わるひとりであり、世界を動かすだけの力があることを―――初代冥府の官吏は知っていた。
勿論、本人には告げないが。
「次……?」
「ああ。また気が向いたら顔を合わせてやってくれ、俺とも、あやつとも。……それだけだ」
驚いたように、紅が目を丸くして瞠目する。
―――本当に、心の底から驚いていた。
冥府の官吏。
死した生命の循環と、霊理を司る存在だと告げていた男がそんな、人のような約束を取り付けてくるなどと思ってもいなかったから。
英雄も。
天才も。
賢者も。
冥官も。
はじまりはやはり人で。人の心を持っていて。
笑い。泣き。怒り。喜ぶ。
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