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はて、そろそろ一時間経ったあたりだろうか。厨房で喫茶店の仕事を手伝いつつ、時間を過ごした薫はふと、軽くではあるが先ほどまで腰掛けていた席を暖簾越しにこっそりと覗きみる。その背後からは、潛も同じように薫の頭の上に顎を乗せながら店を覗き見ている。
「霊理って結構厳しいんですか……? 俺、小さい頃色んな人に色々喋っちゃったんですけど……」
「まあ、規則あっての霊理故な。仮にそれを、本当に目にしていた場合は俺達が動く必要もあるが……言葉だけならば問題もないと判断した。危うく燃やされるところだったな」
「燃やすって、記憶を……?」
「ああ、何か問題でも?」
渋い顔をした紅を前に、翠鳴は鼻で笑い、目の前の少年を睥睨する。
まるで兄と弟のような会話だった。
傲岸不遜にして、唯我独尊。
妥協などせず常に均衡を保ち、霊術師は勿論、陰陽師すら立ち打つことの出来ない最強の男―――薫にとっては天敵にすら近い男で、ようやくここ最近なんとか慣れてきたところだった。
離れることは少しだけ不安だったが、どうやらそれすらも杞憂だったらしい。
「ほら、やっぱり考えすぎだったようだよ。普通に会話出来ている」
「みたいだな。良かったよ」
唯一無二の原因にさえ触れることをしなければ怒ることのない冥官を怒らせるということは、死後の世界を敵に回すに等しい。
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