冬の桜

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冬の桜

 冬の桜  この世界には、冬に咲く桜があるのだという―――。  ○○○  「冬に桜なんて、本当に咲くのだろうか……」  季節は十二月の中旬、冬。空気は完全に冷えきっており、澄み渡っているためか夜は空の星すら見やすいような季節となった。  しかし、寒さがあまり得意ではない紅は部屋に個人で暖房を持ち込んでは起動して、一人冬の寒さとは無縁の時間を楽しんでいる時のこと。  寝具の上に横になっては積み上げられた旅行雑誌を一冊ずつ、かつ(いち)(ページ)ごとに丁寧に捲っていきながら、内容を確かにその目に通しているものの、紅の目当てであった〝冬に咲く桜〟の特集記事は乗っていなかった―――というのにも語弊はあり、冬桜の特集自体は確かにある。  だが聞いていた話とはどこかが違うのだ。  そんな時に、脳裏にクラスメイトである女子生徒の言葉が蘇る。  〝無能力者たちの世界では、冬に咲く桜があるんだって〟  〝冬桜なんてこの学園にも普通に植えてあるじゃない、今更そんなに驚くことでもないよ〟  〝違うの、違うの。すごい綺麗なんだって、普通の桜よりも色が濃くて、整備された河岸にたくさん咲いてる―――〟     
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