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潛に軽く背を押され、紅は足取りが重くなるのを確かに感じながらも、言われた通りに薫たちの在る席へと向かう。
すると、奥の席に座っていたために紅が視線に入ったらしい、薫と相席していた青年が軽く手を振った。
「おーい、こっちこっち。こーちゃーん」
何故知っている。というよりも、この人の性別がどうしてもわからないと、紅は思わず半眼になってしまった。
「お前に名前まで教えた覚えはないぞ」
思わず返そうとしてしまった返事は薫が代わりにしたため、紅は口を噤むだけで済ます。
沈黙が続いた。
紅の眉間の皺は、未だほぐれることはない。
警戒していることが既に顔に出てしまっているのだろうか、碧色の青年が目を細めてほくそ笑むと、視線を薫へと移し、軽く手を振った。
「やだなあ、お嬢。俺だって情報くらい集めるって、気になってましたからね、噂の色男」
しかし薫は返事をせず、双眸の瞼を伏せたまま、手に持っていた湯のみの縁を口へと運ぶ。
中性的な顔立ちをしているから性別の判断に一瞬戸惑うが、声で薫の相席相手が男であるというのは、なんとか分かった。
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