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薫の一言で、紅は碧の少年を見つめる視線が切れる。言われた通りにしようとする前に、もう一度碧の少年を見やれば可愛らしい秋波が飛んでくる。
―――この人は、本当に男なのだろうかという疑問が、また紅の中に浮かんだ。しかし、薫や咲羅のような女性らしい声音でないから少なからず男性、のはず。
「こっちおいでよ、お兄さんとお話しようぜ」
「酒に酔った親父か、お前は」
「そんなことないですって、なあ、こーちゃん」
机に上半身を預けて腕を組み、その上に顎を載せて、青年は笑う。
少なからず、彼の一言に含みがあるようにも思えず、薫と青年を交互に見やれば、薫が呆れたようにため息をついて青年の隣に座るよう、紅に視線をやった。
紅は頷くと、碧哉の隣にある椅子に腰掛ける。
「あはー、噂のこーちゃんだ」
「あの、そのこーちゃんて呼び方は……」
「丹槻紅くん、だからこーちゃん。はは、俺基本人のことそのままの名前で呼ばない主義だから許してくれよ」
やめてくれ、という前に退路は完全に防がれた。完全に場の流れを持っていかれている気がならず薫に助けの目線を送るが、彼女は完全に目を反らしている。
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