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「冗談か、冗談なんだな」
「うんー、俺もあいつも彼に興味があったのは本当だけど……俺はそこまで軽くないです! 落とす時は徹底的に落とすけど、一人だけって決めてるし!」
そう力説し、碧哉は拳を握りしめた。
―――待て。いくつか不安要素を含む言葉がいくつか聞こえた気がしたのだが、気のせいだろうか。碧哉の言い草だと、少なからず初対面でなくなれば口説き落とす気が満々であるとそう受け取れなくもない。
思わず薫が額に手を当てて、連れてこなければよかった、と項垂れてしまった。
紅も渋い顔をしたまま距離を取りそうになってしまったが、碧哉の言葉に瞬きをする。
「貴方が、冥府の官吏……?」
紛れもなく、つい最近耳にした言葉に間違いはない。
不老不死のひとりであり、讐という家の翠鳴という男が初代だったが何の因果か、元来世襲するはずもないこの役職の二代目を請け負った男がいる、と咲羅が口にしていた男。
それが―――今紅の真横で笑みを崩さず、しかしその腹の奥底を誰にも悟らせないこの男。
思わず薫に視線を投げれば、否定の言葉は返ってこない。ただまっすぐと、射抜かれるような強い視線が戻ってきただけ。
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