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「そう、俺が冥府の官吏。死んだ人間の魂の輪廻循環と、霊理を司る。誰かから名前くらいは聞いてたのかな」
「はい、咲羅から……えっと、興味があったって、俺にですか?」
確かに碧哉はそう口にした。
誰から紅の情報を仕入れたのかもわからないし、薫が軽く話題にした程度かもしれないし、また別の情報源があったのかもしれない。
しかし、ここまで露骨に好意を向けられた興味は初めてだったので、思わず紅は眉尻を下げてしまった。
嬉しくは思うが、どうにもやはり―――その心根は読むことが出来ない。
「そう、俺たちは君に興味があったからここまで来た。お嬢、席外してもらえますか」
碧哉の薫への言葉は、疑問ではなくもはや命令に近いものがある。
胸元にしまっていたらしい眼鏡を碧哉が持ち出して机の上に置けば、指で軽くそれをつつく。
その様子を確かに認めた薫が目を伏せれば、立ち上がると何も言わずにその場を離れた。
別の席ではなく店の裏に入ったということは、潛の手伝いでもするつもりなのか―――。
それは誰にもわからないが、あの薫が碧哉の言葉通りに大人しく席を離れたことが、何よりも紅にとっては驚きを隠すことが出来ない。
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