騒音リモコン

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 入社後の配属に伴い、僕は都内へ引っ越すことになった。新しい入居先は古びた安アパートだった。見た目は老朽化していたが、中はリフォーム済みで、家具も最初から備え付きだった。駅も近く、コンビニも目の前。利便性は申し分なく、ただ一点を除けば完璧と言って良かった。 ただ一点……それは騒音だった。  古い建物のせいか、壁が薄く両隣の生活音、いや騒音が丸聞こえなのだ。右隣りに住むホスト風の若い男の部屋からは、毎晩テレビの音や音楽が大音量で鳴り響き、時折、友人たちを呼んでは酒盛りを開き、馬鹿騒ぎに終始していた。左隣の小説家志望の男は、普段は物静かではあるが、夜になると、旧式のコピー機をガタガタと起動させては、紙をくしゃくしゃに丸めて、獣のような唸り声を上げ、壁に頭を打ちつけてくる。  もちろん大家には相談した。しかし大家は話しのすり替えの達人だった。僕の抗議には耳を貸さず、いつの間にか話題を逸らし、意味のない雑談へと移行させていった。結果的に、数十分もの間、大家の世間話に耳を貸さなくてはならず、無駄話という騒音にも耐えなければならなかった。
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