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小さな幸せを胸に家の前に戻ると、耐えがたい騒音が待っていた。右隣のホスト風の男が友人たちと酒盛りをしていたのだ。「今日はこいつの女がくるから」だの「女を連れ込むのもたいがいにしろよ」だの、聞きたくもない話しで盛り上がっている。
隣の騒音をすべて消してしまいたいが、リモコンを向ける対象が多くて、今の僕には、いささか面倒だった。
部屋に入り、パソコンの開き、動画レンタルサイトからアダルト動画をダウンロードした。日ごろから、ミナガワさんに似た素人女優やセクシー女優を何人もピックアップしていた。そしてイヤフォンをつけ、右隣の騒音を遮ることにした。
だが、イヤフォンをしても聞こえてくるのは隣の男たちの会話だった。動画にはまったく集中できない。
もう耐えられない。僕は右隣の部屋を睨みつけた。
壁越しからではリモコンの電波は届かなかった。右隣の家の前まで行き、外から窓をこっそりと開けて、対象となる人物にリモコンを向けなくてはいけない。
僕は覚悟を決めて、リモコンを持ってドアを開けた。
外に出た瞬間、男たちが「じゃあ、お疲れー」と言いながら隣家を出て、階段を下りて行くのが目に入った。僕は虚を突かれて、その場に立ち尽くすしかなかった。
その男たちと入れ違いになるように、一人の人物が階段を駆け上がってくる音がした。
コツ、コツ、コツ、コツ――。
コートを羽織り、マフラーに少しだけ顔を埋める女性。
ミナガワさんだった。
「こんばんは」
ミナガワさんは僕に軽く挨拶をし、ホスト風の男の家へと吸い込まれて行った。
当然、ミナガワさんは僕の顔など覚えているはずもない。
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