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お母さんの手
寒いって言うと、お母さんは必ず私の手を握ってくれた。
それに甘えて、お母さんの手が冷たくなるまでずっとその手を握っていた。
…今は逆だね。
私の手を握るお母さんの手はいつも冷たい。みんなが『お前のお母さんはもう死んでしまったよ』と嘘をついた時から、ずっとずっと冷たい。
だけどそれでもいいよ。だって今度は、私がお母さんを温めて上げる番だから。
みんなが嫌な嘘をついたから、お母さんは昼はどこかに隠れてしまっている。でも夜になると私の部屋に来て、そっと私の手を握るの。
その手は毎晩冷たいけれど、でも大丈夫。
お母さんの手のぬくもりを私は覚えている。私が温めれば、あの温かさに戻ると信じている。
だから遠慮なく私の手を握って。私も精一杯握り返すから。
…まだ氷みたい。だけどこの手を離したりしないよ。
昔のようなぬくもりの手に戻るまで、私、お母さんの手を握り続けるからね。
お母さんの手…完
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