狐火

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朱を連れ出した霧彦は、境内にいるはずの連れの姿がない事に気付いて、慌てて坂下へ走っていってしまった。 一人で行くのに何の問題があったのか?訳も分からず引きずり出された挙句の放置。 理不尽とはこの事ではないか。 若い子にはついていけないと、げっそりと肩を落とす。 無意識に袂に手を入れるが、煙草は流しに置いてきてしまった。 坂下から吹き上がってくる涼やかな風には、言われてみれば時折、嗅ぎ慣れない香ばしい砂糖醤油と酢飯の香りが混ざる。 これは、まさに……あれだ。 しばしうっとりとする。 そう言えば、中学生たちの姿も消えている。 帰ってしまったのだろうか。 社は山の中腹にあって、社の杜はそのまま山に続いている。 鳥居の上からは町内が一望できるのだが、夜景といえば街灯がちらほら見えるだけなので、景色を眺めるなら、川霧に包まれた朝焼けか蜉蝣の飛ぶ夕暮れ時が美しい。 関東の片隅の寂びれた田舎町を、朱はなかなか気に入っている。 参道の向こうは急な斜面になっており、鳥居迄はかなりきつめの石段が続く。 社務所からは見えないので、強い陽を避けながら鳥居のあたりまで降りて行くと、おかしな事になっていた。
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