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境内とは打って変わって、鬱蒼と茂る小楢や樫、楠などの大木が空を覆う。
山をそのまま切り開いたようなところで、石段は堆積した落ち葉で半ば埋もれている。
ひいやりとした苔沁みた風に甘い香りが混ざり、坂下から駆け上がってくる。
今さっき降りていったはずの霧丸の姿はなく、苔むした石段の上に黒い塊が転々としているのを見つけた。
それらが一斉に身動いで、朱を見つめた。
見知った顔の烏たちだった。
「おまえたち、どうしたの。……霧彦は?」
朱の一番近く、足元でうずくまっていた大柄な烏が、決して可愛くはないが甘えるような声で鳴いた。
いく羽もの烏たちが取り巻くその中に、ぼんやりと白い鬼火のように見えたのが小さな人影だと気付いて、朱は身構えた。
黒い垂髪を肩の上で切り揃えた髪型は、かの有名な麗子嬢のようだが、白い肌とすっとした頬には子供っぽさのかけらもない。
どちらかと言えば遊郭にいる、かむろの様な姿である。
白い綸子の着物に火炎紋の刺繍の入った浅黄色の帯を合わせ、ちらりとのぞかせた絞りの帯揚と帯締めの黄色で、全体を白い炎の様に見立てていた。
胸元に覗く筥迫簪が、木漏れ日を受けて微かに光ると、光物に目がない烏たちは、それに釘付けになった。
少女は、古代紫の大きな風呂敷包みを大事そうに抱えなおすと、朱を見上げた。
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